金子愛&マライア・ヘルダー ヴァイオリン&ヴィオラ デュオ リサイタル
金子愛&マライア・ヘルダー
ヴァイオリン&ヴィオラ デュオ リサイタル
日 時:2005年4月10日(日) 14:00開場 14:30開演
会 場:ドルチェ・ホール(JR西千葉駅徒歩5分)
入場料:前売;¥2000 当日;¥2500
出 演:

Violin 金子 愛 Ai Kaneko
愛知県出身。武蔵野音楽大学卒業。
97年、北九州室内音楽祭TOTOクフモプライズ1位。
2002年、リヒャルト・シュトラウス音楽院修了。
クフモ室内音楽祭(フィンランド)に招待され、サヴォンリナ室内音楽祭、
オランダ・ミュージック・セッションなどでマイスタークラスに参加。
これまでに菅原英洋、故G・ジャービス、河内治、M・ゴトーニ、M・ルボツキーの各氏に、
またシレジア弦楽四重奏団に師事。現在、ミュンヘンを中心に音楽活動をしている。
Kammerphilharmonie Amadé団員。

Viola マライア・ヘルダー Marije Helder
オランダ・ロッテルダム音楽大学卒業。
ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院修士課程在学中(演奏会当時)。
ソリスト、室内楽奏者としてオランダ国内外で活躍する傍ら、
特に室内楽では数多くのコンクールにおいて優勝および入賞している。
V・メンデルスゾーン、V・ハーゲン、P・ラングガルトナーの各氏に、
ボロドスキー弦楽四重奏団に師事。今後の活躍が期待される、若手ヴィオラ奏者。
プログラム
ハルヴォルセン;ヘンデルの主題によるパッサカリア
マルティヌー;ヴァイオリンとヴィオラのためのマドリガル
バルトーク;2つのヴァイオリンのための44の二重奏曲より
モーツァルト;ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲
ヴィラ=ロボス;ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲
Program Note
●ハルヴォルセン ヘンデルの主題によるパッサカリア
J. Halvorsen(1864-1935) Passacaglia fuer Violine und Bratsche Frei nach Haendel
ヴァイオリンとヴィオラの二重奏曲の中で最も知られ、人気のあるのがこの曲です。
ノルウェー人作曲家ハルヴォルセンの名もこの曲ゆえに知られたと言ってよいでしょう。
ノルウェーの生んだ大作曲家グリークを義父に持つ彼は、ヴァイオリニストまた指揮者として活躍しましたが、
その音楽活動の全域にわたりグリークの影響を受けました。
パッサカリアとは、一定の低音主題が反復される間、たえず高音にオブリガートが変形されながら展開される変奏曲です。この曲はヘンデル/G.F.Handel(1685-1759)のチェンバロ組曲第7番ト短調の終楽章の主題を、ヴァイオリンとヴィオラの技巧を駆使したばヴァリエーション(変奏曲)として展開します。
しかしヘンデルの主題を使用しつつも、作曲者自身の自由で斬新な創作によるものです。
私は循環するこの曲を聴く度に「巡礼」を思います。延々と巡り歩いた初代キリスト教時代のローマ巡礼や、
日本では「お遍路さん」でしょうか。華やかな装飾技巧は変化しても、主題は荘厳な響きを持ち、底に流れる音がいつも同じで全てを支えている。風景、気候、体調など外界は変化しても、心の底にある変わらぬ確かな思いが、聖地へ向かう自分を支えている。パッサカリアと巡礼、二つはとても似ている気がします。
●マルティヌー ヴァイオリンとヴィオラのためのマドリガル
B. Martinu(1890-1959) Three Madrigals for Violin and Viola
・Poco allegro
・Poco andante
・Allegro
20世紀の作曲家、ボヘミア(チェコ)生まれのマルティヌーは、プラハ音楽院を退学し33歳でパリに渡ります。
その後、当時パリを中心に活躍していたフランス6人組(オネゲル、ミヨー、プーランク他)やストラヴィンスキーなどの影響を受け、新古典主義に傾倒しました。新古典主義とは、脱ロマン主義、脱表現主義、脱印象主義、つまり簡素な古典様式への回帰であると言えます。しかし、形式や曲種などで18世紀への回帰を目指す一方、非西洋音楽やジャズを取り込むことで新たな多様性を目指すという実験的な面もありました。そのため新古典主義の音楽は、簡明率直で機知に富み、軽妙な表情を持つ一方、作曲家の意識や知的論理が先行しがちで、耳に自然でないこともあります。
マルティヌーは、イギリスの合唱団の歌うマドリガルに感動し、この曲の他に、弦、管楽器、ピアノなど異なる編成によるマドリガルシリーズを作曲しました。マドリガルとは中世の声楽曲の一つで、中心主題は愛と官能、詩的イメージは主に自然からとられています。新古典主義に傾倒したマルティヌーがこの題材に惹かれたのも納得できます。1、3楽章はとてもリズミカルでヴァイオリンとヴィオラの掛け合いがエキサイティングです。2楽章は、時間が止まったように始まり、少しずつ動き出し、次第に速さを増す。そして勢いよく回転しはじめる時間に自分の身体さえ振り回され、ついに投げ出される。・・・静寂・・・。永遠の至福の岸辺にたどり着いたような静けさ、浮揚感が、最後に訪れます。特に後半の“美しい世界にたどり着いた部分”は、官能的な抽象美の世界です。マドリガルらしい、声楽曲のような魅力があります。
戦中はナチスを逃れてアメリカに渡ったマルティヌーですが、戦後はチェコへの帰郷を希望しつつも社会主義政権に拒まれ、ついに母国の地を踏むことなくスイスで亡くなりました。しかし今では、ドヴォルジャーク、スメタナ、ヤナーチェックと並ぶチェコの大作曲家の列に加えられ、その功績を高く認められています。
●バルトーク 二つのヴァイオリンのための44の二重奏曲より(抜粋)
B. Bartok(1881-1945) 44 Duets for Two Violins
・10 Ruthenian Song
・5 Slovakian Song(1)
・32 Dance From Maramaros
・36 Bagpipes/Variant of No.36
・35 Ruthenian Kolomeika
この曲は最初、子供のためのヴァイオリン二重奏用の練習曲・・・単に技術を学ぶだけではなく、音に潜む精神性を理解するための練習曲・・・として書かれました。
44曲中42曲が東ヨーロッパの民謡を基に書かれ残りの2曲は類似曲です。
ハンガリー人のバルトークは20世紀を代表する大作曲家であり、ピアニスト、教師、そして音楽学者として民俗音楽研究において非常に大きな業績を残しました。彼が生涯で収集した民謡は、約1万曲。収集は作曲家のコダーイと共に進められ、当時のハンガリー王国各地からトルコや北アフリカにまで何度も旅行し、そこで聴いた民謡を一つ一つ写譜するという気の遠くなる作業も含まれました。しかも採集だけでなく、それらを克明に分析し、その結果を多くの論文で発表しました。このことからも、彼がいかに自らの音楽活動において民俗音楽研究を重視していたかが分かります。彼の作品は、民俗音楽の技法と洗練された芸術音楽の技法とが緊密に結びつき、かつてないほど芸術性の高い民俗主義的音楽となりました。
今回ヴァイオリンとヴィオラで演奏する5曲は、ハンガリー国内のスロヴァキア、ルーマニア系の民謡(10、5、32番)と、その特徴や音を模倣した曲(36、35番)です。36番はルーマニアのバグパイプを、35番はジプシーヴァイオリンを模倣した曲となっています。
●モーツァルト ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 KV424
W. A. Mozart(1756-1791) Duo in B KV.424 fuer Violine und Bratsche
・Adagio-Allegro
・Andante cantabile
・Thema Andante grazioso-variazioni I–VI-Allegro
モーツァルト27歳の時に作曲されたこの作品は、作曲背景に美談があります。友人ミヒャエル・ハイドンが大司教から6曲のヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲の作曲を依頼された際、4曲だけ作曲して急病になってしまったため、友人のためにモーツァルトが残りの2曲を作曲した、というものです。急場をしのぐ作曲だったとはいえ、モーツァルト自身、相当な意欲をもって作曲に打ち込みました。絶頂期のモーツァルト、ウイーン時代の前年にあたります。彼自身も、ヴァイオリンとヴィオラ二重奏という編成が、室内楽の中で最も不安定なものであることを承知した上でこの作品に取り組み、両楽器平等ではなく、ヴァイオリンに主導権、ヴィオラは補佐、伴奏役といったバランスで書き上げました。さすがは天才モーツァルト、編成の難しさをクリアし、まるで弦楽四重奏のような音響スケールの二重奏曲に完成させました。
今回はその2曲のうちヴァイオリンが技巧的なことで有名なKV424番を演奏します。ゆっくりしたアダージョで始まる1楽章、ギターのようなヴィオラ伴奏の上にヴァイオリンが歌い上げる2楽章、そして最初のテーマが6種のヴァリエーションで展開される3楽章。モーツァルトならではの、美しさと軽やかさ、変幻自在でウィットに満ちた曲です。
●ヴィラ=ロボス ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲
H. Villa-Lovos(1884-1959) Duo (violino e alto)
・Allegro
・Adagio
・Allegro agitato
「私は、必要にかられて作曲している!生物的な必要にかられて!!」 これはブラジルの生んだ南アメリカ最大の作曲家ヴィラ=ロボスの言葉です。彼は1887年にブラジルのリオデジャネイロに生まれ、最初父からチェロを学びます。その後ギターを学び名手となりましたが、自由奔放な豪快人間ヴィラ=ロボスは生涯に渡って音楽教育を受けず独学でバッハ、ドヴュッシー、ストラヴィンスキーなどの作曲法に加え、ブラジルの民俗音楽を学びました。しばしば基礎理論の欠如を叩かれたようですが、「私は数世代後の人々のために書いている」など言って逆に批判者を笑っていたとか。しばしばパリに滞在していたことからフランス音楽にも大きな影響を受けています。生涯で1500曲にも及ぶ作品を残した彼は一日中、朝から晩まで作曲をしたそうです。まさに冒頭の言葉のとおりだったのでしょう。作曲が一番困難だと言われる弦楽四重奏にいたっては17曲を残し、その功績は、ベートーヴェンやショスターコヴィッチに匹敵するとも言われています。彼は自分の作品について「巨大で力強い、熱血の、実り豊かな地の創造物である!」と言っていますが、その言葉どおり、ヴィラ=ロボスの全作品は洗練されたフランスの香りを放ちながらも、根底にはブラジルの太陽、大地、情熱などを彷彿させるものばかりです。そのフランス+ブラジルのテイストがなんとも、かっこいいのです。
私は数枚のヴィラ=ロボスの写真を見たことがあるのですが、葉巻をくわえたスーツ姿のヴィラ=ロボスは、映画俳優顔負けの美顔と豪快なオーラで、まるでゴッドファーザーのよう。顔を見ただけで彼の作風がおおよそ理解できてしまうほどです。この曲は日本でもヨーロッパでもほとんど演奏されたことがないようですが、ヴィラ=ロボスらしい“フランスのテイスト&ブラジルの血”を充分感じることができます。頭で解釈するのではなく、ヴィラ=ロボスの言うように“Body=体”いや“血”で感じて下さると、また違った体感を得られ、楽しんでいただけると思います。
(Program Note/Violin:金子 愛)

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